バンコクのチャオプラヤー川沿いに建つ、ワット・アルン。
「暁の寺」とも呼ばれるこの寺院は、空に向かって伸びる美しい塔が印象的です。
実際に訪れたときは境内を歩いて塔を間近に眺め、さらに川の対岸からもその姿を楽しみました。
遠くから見ると、白く輝く巨大な塔。しかし、近づいてみると、その表面には驚くほど細かな装飾が施されています。
そして、実はこの塔を彩っているのは、中国の陶磁器のかけらや貝殻なのです。
一見すると白く美しい塔が、小さな陶磁器のかけらによって飾られている。
そのことを知ると、ワット・アルンの見え方が少し変わってきます。
白い塔を近くで見ると、色とりどりの陶磁器が現れる
ワット・アルンの中央にそびえる大きな塔は、「プラーン」と呼ばれる仏塔です。
タイ国政府観光庁によると、この塔の表面には、中国の陶磁器片や貝殻が使われています。
遠くからは白っぽい建物に見えますが、近づいてみると、その印象は大きく変わります。
白や青、緑、黄色など、さまざまな色の陶磁器が組み合わされ、花や葉のような模様がつくられているのです。
中には、陶磁器の丸みや模様を生かした立体的な装飾もあります。
もともとは小さな陶磁器の一部分だったものが、組み合わされることで、美しい花の形になる。
そして、その小さな模様が幾重にも重なり、巨大な塔全体を彩っています。

ワット・アルンの仏塔に施された装飾。中国の陶磁器片や貝殻が、細かな模様をつくっている。
ここで面白いのは、装飾に使われている陶磁器が中国由来だということです。
タイと中国は古くから交易などを通じて交流しており、中国の陶磁器はタイにも広く伝わっていました。
ワット・アルンでは、そうした中国由来の素材がタイ独自の宗教建築と組み合わされています。
なお、陶磁器は中国から来た船の重しとして運ばれたという説もありますが、すべての装飾片がどのように運ばれたのかまで明らかになっているわけではありません。
それでも、異なる土地の文化が一つの寺院の装飾に取り入れられているというのは、興味深い話です。
実は、塔そのものが「宇宙の中心」を表している
ワット・アルンの塔には、もう一つ興味深い意味があります。
実は、中央にそびえる巨大な塔は、仏教やヒンドゥー教の宇宙観に登場する「須弥山(しゅみせん)」を象徴しているのです。
須弥山とは、古代インドの宗教的な世界観において、宇宙の中心にそびえると考えられた神聖な山のこと。
ワット・アルンでは、中央の大きな塔を中心に、その四隅に小さな塔が配置されています。
これは、宇宙の中心と、その周囲に広がる世界を表す構成になっています。
さらに、塔を支えるように並ぶ鬼神や猿の像、神々の彫刻にも宗教的な意味が込められています。
つまり、あの巨大な塔は、単に美しさを追求した建築物ではありません。
建物全体を使って、目には見えない宇宙の姿を表現しようとしているのです。
そう考えると、細かな陶磁器の装飾だけでなく、塔の形や彫刻の配置にも目を向けたくなります。
遠くから眺めると美しい一つの建築ですが、近くで見れば、そこにはさまざまな文化や信仰が重なっています。
対岸から見ると、また違った美しさがある
ワット・アルンは、川の対岸から眺める景色も有名です。
特に夕暮れから夜にかけては、空の色が変化する中で、塔の美しい輪郭が浮かび上がります。
境内で間近に見たときには、陶磁器の色や模様、細かな彫刻が印象に残りました。
一方、対岸から眺めると、そうした装飾はほとんど見えなくなり、塔全体の形が際立ちます。
でも、あの美しい塔の表面が、無数の陶磁器のかけらで飾られていることを知っていると、少し違った景色に感じられます。

チャオプラヤー川の対岸から眺めた夜のワット・アルン。近くで見た細かな装飾とは、また違った美しさがある。
ワット・アルンは、その姿を遠くから眺めるだけでも十分に美しい寺院です。
でも、近づいてみると、中国の陶磁器がつくる細かな模様や、宇宙を表現した宗教的な意味が隠されています。
小さな陶磁器のかけらが集まって、あれほど壮大な建築を彩っているというのは、何とも不思議な気がします。
バンコクを訪れたときは、対岸から美しい塔を眺めるだけでなく、ぜひ境内にも足を運んでみてください。
遠くからでは分からなかった、ワット・アルンのもう一つの美しさに気づけるかもしれません。
実際に境内を訪れ、対岸からもワット・アルンを眺めた日のことは、バンコクの旅行記に書いています。







