上海を訪れた初日、特に印象に残ったのが外灘(ワイタン)の夜景でした。
黄浦江の向こうには、東方明珠塔や上海タワーをはじめとする近未来的な高層ビル群。一方、川沿いにはヨーロッパの街並みを思わせる重厚な建物が並んでいます。
川を挟んで、まったく違う時代の都市が向かい合っているような景色でした。
でも、そもそもなぜ中国の上海に、これほど多くのヨーロッパ風の建物があるのでしょうか。
実は、外灘に並ぶ歴史的な建物の多くは、かつて銀行や商社などが使っていたものなのです。
そして、さらに面白いのは、川の向こうに見える高層ビル群もまた、上海を代表する金融街だということ。
あの有名な夜景には、上海が国際都市として発展してきた歴史が映し出されているのです。
外灘は、かつて世界中の銀行が集まる金融街だった
外灘の歴史が大きく変わり始めたのは、19世紀のことです。
1842年、アヘン戦争に敗れた清はイギリスと南京条約を結び、上海は外国との貿易に開かれる港の一つとなりました。
その後、上海には外国人が居住・活動する「租界」と呼ばれる区域が設けられます。
外灘の一帯も、イギリスやアメリカなどが関わる共同租界の中心部として発展していきました。
この租界では、外国側が独自の行政制度を運営するなど、中国側の統治権が制限されていました。現在の美しい街並みの背景には、こうした不平等な国際関係の歴史もあります。
貿易が盛んになるにつれて、上海には外国の銀行や商社、保険会社などが次々と進出しました。
そして、企業が活動する拠点として建てられたのが、現在も外灘に並ぶヨーロッパ風の建物です。
上海市の公式資料によると、外灘には52棟の歴史的建築物が並び、ゴシック様式やバロック様式など、さまざまな建築を見ることができます。
この街並みは「万国建築博覧群」とも呼ばれています。
つまり、今では美しい観光名所となっている外灘は、もともと世界中のお金や商品が行き交う国際的なビジネスの中心地だったのです。
銀行は、建物の豪華さでも力を示そうとした
外灘の歴史的建築の中でも、特に興味深いのが「旧香港上海銀行ビル(旧HSBC銀行ビル)」です。
1923年に完成したこの建物は、大きなドームと堂々とした柱を持ち、現在は上海浦東発展銀行が使用しています。
実は、この建物の建設には興味深いエピソードがあります。
HSBCが公開している歴史資料によると、当時の上海支店の責任者は、設計者に対して費用を惜しまず、外灘でひときわ存在感のある建物にするよう求めていたそうです。
銀行にとって、建物は単に仕事をするための場所ではありませんでした。
その壮大さによって、自分たちの経済力や信用、存在感を示す役割も持っていたのです。
そう考えると、外灘に並ぶ立派な柱やドームも、少し違って見えてきます。
ヨーロッパ風の華やかな建築は、当時の銀行や企業が持っていた力を表すものでもあったわけです。

上海・外灘の夜景。現在も残る歴史的建築物の多くは、かつて銀行や商社などが使っていた建物。
川の向こうには、現代の上海の金融街が広がっている
そして、外灘の面白さは、歴史的な建物だけではありません。
黄浦江を挟んだ対岸には、東方明珠塔や上海タワーなどの高層ビル群が広がっています。
ここは浦東(プドン)の「陸家嘴(りくかし)」と呼ばれる地区です。
実は、この陸家嘴も、上海を代表する金融街なのです。
ただし、その歴史は外灘とは大きく異なります。
現在の浦東にある高層ビル群は、主に1990年の浦東開発・開放政策をきっかけとして発展しました。
それ以前の浦東には、農地や港湾施設などが広がり、現在のような超高層ビル群はありませんでした。
ところが、開発が進むにつれて金融機関や企業が集まり、上海を代表するビジネス街へと成長していきました。
つまり、黄浦江の西側には19世紀から20世紀前半に発展した旧金融街が残り、東側には1990年代以降に成長した新しい金融街が広がっているのです。
外灘の重厚な石造りの建物と、浦東のガラス張りの高層ビル。
建築の姿はまったく違いますが、どちらも上海が国際的な経済都市として発展してきた歴史を表しています。
同じ川を挟んで、異なる時代の金融街が向かい合っている。
このことを知ると、あの有名な夜景が、ただ美しいだけの景色ではなくなってきます。
上海の夜景には、異なる時代の歴史が映っている
外灘を初めて訪れたときは、ヨーロッパ風の建物と近未来的な高層ビルが一度に見られることに驚きました。
でも、その背景を知ると、上海の夜景はさらに面白くなります。
外国の銀行や商社が集まった時代の外灘。そして、現代の上海の発展を象徴する浦東。
今ではどちらも美しい夜景として親しまれていますが、それぞれの建物がつくられた時代も、そこに込められた意味も違います。
あの日、ただきれいだと思って眺めていた景色。
実は、川の両側に並んでいたのは、異なる時代の上海の金融街だったのです。
次に訪れるときは、目の前の高層ビルだけでなく、振り返った先にある歴史的な建物にも、もう一度ゆっくり目を向けてみたいと思います。
上海初日に南京東路から外灘まで歩いた様子は、上海初日の旅行記に書いています。






